Chatwork株式会社
企業向けのチャットサービスを提供するChatworkは、トランザクションメールにクラウド型のTwilio SendGridを導入した。メール配信がスケールしないという課題を解消するとともに、あらゆるユーザにメールを確実に届けるという価値も得られたという。
会社をまたいで誰でも使える「Chatwork」
「ビジネスが加速するクラウド会議室」を謳うChatworkは、企業向けのチャットサービスを提供している。基本となる「グループチャット」のほか、「タスク管理」「ファイル共有」「ビデオ/音声会議」の4つをセットにして提供しており、ビジネスコミュニケーションの促進を図る。Chatwork 基盤開発部マネージャーの須藤裕嗣氏は、「チャットの会議から議事録を作り、そのままタスク管理までできます。タスクが終了すると全員に通知が行くので、やり忘れや漏れがなくなります」とサービスについて説明する。
クラウド型なのでサーバは不要で、会員登録するだけで利用可能。Webブラウザのほか、iOS、Androidのアプリからも利用でき、社外とのコミュニケーションにも活用できる。当初は中小企業向けでスタートしたが、KDDIとの提携によりエンタープライズのユーザも増えており、現在導入は5万7000社にのぼるという。
Chatworkのサービスのポイントは「誰でも使いやすい」という点。機能を足さない、複雑な部品は使わないなど、とにかくシンプルさを追求している。須藤氏は、「仕事している人全員が使えるツールにしようとしています。一般企業のユーザは多いですが、農家や病院の方も使っています」と語る。
前職でChatworkを使っていたというChatwork WEB開発部の尾崎耕多氏は、「みんな忙しすぎて、社内のコミュニケーションが希薄になっていたし、口頭で話していることをきちんとログに残したいと思っていました」という理由でChatworkを導入し、使いやすさに魅了されたという。
1時間でメールを送りきれなくなってきた
ビジネスが拡大する中、Chatworkで顕在化してきたのが、メール配信の負荷だった。Chatworkはログインしていないユーザ向けに未読を通知するメールの機能を持っている。しかし、ユーザ数の増加と共にメール配信数も拡大し、大きな負荷がかかるようになっていた。
須藤氏は、「ピーク時で1時間で3~4万件で1日では30~40万件くらい。他社のメールサービスを使っていたのですが、負荷が重くなっていました。スケールするためにはサーバを足す必要があり、コストがかかることがわかりました」と振り返る。尾崎氏も「1時間に1度くらいで配信するのですが、1時間で送りきれなくなったんです。未読メールが届いたのを見てチェックしたら、(配信が遅すぎて)未読をすでに読み終えた後という情けない状態」と語る。こうした課題を解決すべくChatworkが導入したのが、クラウド型メール配信サービスのSendGridだ。
グローバルで高い実績を誇るSendGridは、SMTPやWeb APIを介してメール配信を行うサービス。Webサービス事業者はSendGridを介して、ユーザ登録通知、アラート、支払い確認、パスワードリマインダなどのトランザクションメール、メールマガジン、ニュースレターなどのマーケティングメールをユーザに確実に配信できる。
日本でSendGridの販売代理店を務めている構造計画研究所の事業開発部 SendGrid エバンジェリスト中井勘介氏は、「国内のメールサービスの多くはクラウド型と言いつつ、ユーザにサーバを提供するASP型。そのため、Chatworkのように配信数が増えると、どうしても限界に達してしまうんです」と指摘する。尾崎氏も、「ビジネスがスケールしている時にメール配信の開発に工数をとられたくない。だから、スケールできるサービスじゃないと導入できないと思っていました」と語る。
そもそもメールは届かない?「送れば届く」という価値
拡張性の高さに加え、SendGridの魅力となるのが、メールを確実にユーザに届けられるという価値だ。
実はメール配信は会員DBの宛先に対して単にメールを送信するだけで全員に届くわけではなく、さまざまな課題がある。たとえば、UserUknownのエラーなのに再送を繰り返してしまう場合は、ふるまいとしてはスパムメールと同じになるため、受信側のブラックリストに入る可能性がある。宛先がGmailの場合、送信が失敗すると、数時間は受け取りが拒否されるので、メールがバウンスしてしまうという。
また、不正なメールのリレーを防ぐためのDKIMやSPFなどの送信者認証にも対応する必要があるほか、日本の場合、通信事業者が迷惑メール対策のフィルタを多段に用意しているため、すべてのユーザに確実にメールを届けるのは意外と難しい。こうしたフィルタをかいくぐるため、送信側が毎回IPアドレスを変えて送信する事業者がいるほか、ユーザ自体がドメイン指定のフィルタをかけている例も多いため、確実なメール配信は一筋縄ではいかないのだ。
中井氏は、「日本ではメールは送ったら届く、届いて当たり前と考えている人が多い。でも、実際はスパムメールが増えたおかげで、送信側でやらなければいけないことが増えているんです。その日だけ100万通送るとかは、いきなりは無理です」と指摘する。
SendGridでは、メール配信を確実に行うため、バウンスメールの処理を機能として実装している。中井氏は「Amazon SES(Simple E-mail Service)でも大量のメール送信は可能なのですが、バウンスした場合の処理を自前で構築する必要があります。SendGridの場合は、バウンスしたら自動的にリストに入り、送信しない。メール配信はSendGridにお任せし、開発者は本業に専念できます」とアピールする。コスト面で見れば、Amazon SESの方が優れていることも多いが、バウンス処理などを作り込む工数や運用負荷を考えると、SendGridの方が優れているというわけだ。
送信先に関しても、GmailやYahoo!メール、Outlook.comなど米国のサービスに関してはほぼ問題なく送信可能。各種、送信元認証にも対応しており、宛先のサーバとの信頼関係を構築してからメールを送るため、正しくメールを配信できるという。また、オープンやクリックなどのユーザ行動をトラッキングできるため、マーケティングでの利用にも最適だという。さらに、当初不十分だったSendGrid公式ライブラリでのマルチバイト対応も構造計画研究所のフィードバックを元に改良されており、現在は安心して日本語メールを送れるという。
SendGridの独自機能で効率的にメールを配信
以前から提案していたSendGridの導入が本格的に進んだのは2014年6月くらい。導入に際しては、プランを決めるため、3ヶ月のウォームアップを実施した。「完全に終わったのは9月ですね。ほぼ1ヶ月くらいかけて少しずつ送信量を増やしていきました」(尾崎氏)。
これと並行し、ChatworkのシステムとSendGridが用意しているSMTP APIとの連携を進めた。1万通の配信に対して1万回のリクエストを送らなければならない通常のSMTPと異なり、SendGridでは1回の送信で1,000通を送信できるようにする独自拡張が施されている。この機能を利用すべく、SendGridのSMTP APIを用いて、Chatworkのシステムに実装したのだ。
とはいえ、この実装には文字コード周りで苦労もあった。SendGridは日本語メールの文字コードのISO-2022-JPを使う場合、Web APIではなくSMTPを使う必要がある。「UTF-8で送れたらWeb APIを使えるので、実装も早かったんですが、うちではいったんISO-2022-JPに変換し、JSON形式に直して、SMTPヘッダを改良する必要がありました。ここはちょっと苦労しましたね」と尾崎氏は振り返る。
ユーザに確実に届く価値はエンタープライズでも大きい
本導入後は遅延やトラブルもほとんどなく、確実に配信できている。尾崎氏は、「なにしろ送れば確実に届くというのがいいです。以前、自前でメール配信サービスも作ったんですが、まあ送っても届かない。DKIMやSPFなども管理画面からチェックするだけで使えるので、ありがたい」とSendGridを高く評価する。須藤氏は、「メール配信やスパムメールの現状をきちんと教えてもらいましたし、なにしろすぐに使えるというのが一番の強みですね」と語る。
一方、コスト面では従来と大きく変わらないという。完全従量制のAmazon SESに対して、SendGridは半従量課金に近い。送る量に対して月額が固定されていて、超えたらその分従量課金というケータイに近い料金プランになっている。そのため、数ヶ月の送信量を見ながらプランを確定。増えたり減ったりしたら、プランを変更するという流れで対応している。こうしたプランニングの末、必ずしも従来のASPサービスに比べてコストが下がったわけではないが、「確実なメール配信と開発負荷の軽減という価値は高いと認識しているので、妥当なコストだと思います」と尾崎氏は語る。
30年近い歴史を持つインターネットメール。「以前うちのサイトでも『メールの時代は終わりました』と謳っていたのですが、Chatworkのユーザ登録には結局メールアドレスがいるんです(笑)」(須藤氏)とのことで、さまざまな課題はあれども、現在の我々のビジネスを支えるインフラであることは変わらない。こうしたメール配信を確実に実現でき、容易にスケールできるクラウド型のSendGrid。今年はモバイルアプリの提供やユーザインターフェイスの刷新などもあり、Webサービス事業者やスタートアップのみならず、多くのエンタープライズ企業で利用価値は高くなっていきそうだ。
※掲載内容はすべて取材当時のものです。
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