SendGridユーザが知っておくべき、Apple社メールプライバシー保護機能の影響(後編)
- 2022年1月20日
- by SendGrid
- Category: ベストプラクティス 機能・使い方
前編では、Apple社のメールプライバシー保護機能によって影響を受けるSendGridの機能を紹介しました。後編となる今回は、その対応策をご紹介します。
影響範囲を知ろう
具体的な対応策を考える前に、現在の状況を知ることが大切です。メールプライバシー保護機能が有効な宛先はどれほどあり、開封データにどれほど影響しているのでしょうか?
SendGrid全体のデータ
はじめにSendGridプラットフォーム全体のデータを、米国SendGridブログから引用してご紹介します。
iOS 15でメールプライバシー保護機能が利用可能になった最初の7日間(2021年9月21日〜27日)で、この機能によって機械的に開封された割合は全体の5%でした。また、総開封数は前週に比べて1.5%、ユニークな開封数は6.5%増加しました。総開封数の1.5%増という数字は誤差の範囲内ですが、ユニークな開封数の増加率6.5%は、過去6ヶ月における1週間当たりの増加率のおよそ2倍です。初週から、少なからず影響があったことがわかります。
(https://sendgrid.com/blog/apple-mail-privacy-protection/ から引用)
2021年11月末のブラックフライデーとサイバーマンデーでは、Twilio SendGridはそれぞれ約68億通、70億通のメールを処理しています。この時のデータでは、メールプライバシー保護機能による開封が全体の40%前後に上りました。Apple社のメールプライバシー保護機能が広く浸透してきていることがわかります。
(https://sendgrid.com/blog/black-friday-cyber-monday-2021/ から引用。上がブラックフライデー 、下がサイバーマンデーのデータ。赤が従来の開封、青がメールプライバシー保護機能による開封。)
皆さんの送信先での影響範囲は?
上で紹介したのはあくまでSendGrid全体のデータなので、皆さんご自身の送信先にどれだけ影響があるかはわかりません。もし対象となる数が多くないなら、対策を取る必要もないかもしれません。対策を考える前に、まずは送信先にどれぐらい対象者がいるのかを知りましょう。
前編で述べたとおり、影響があるのは、①Apple社製デバイスを利用し、②新OSにアップデート済みで、③AppleのメールAppを利用し、④メールプライバシー保護機能を有効にしている受信者による開封です。iCloudに限らずあらゆるメールアドレスをメールAppに登録できるため、単純にメールアドレスから影響範囲を判断することはできません。また、Apple社製品を使っていてもメールAppを利用していないなら対象外です。そのため影響範囲は簡単にはわかりませんが、SendGridの機能を使えば見積もることができます。以下にその方法を2つ紹介します。
1. Statsで機能リリース前のOpenの状況をみる
1つ目は、メールプライバシー保護機能のリリース前(2021年9月20日以前)の統計データを見て、皆さんの送信先にどれぐらいApple社製品が含まれるかを見積もる方法です。
Stats > Email Clients & Devicesでは、どのようなデバイスやメールクライアントでメールが開封されたかを確認することができます。下の図のように、Webmail(Gmailなど)、Phone(iPhone/Android)、Tablet(iPadなど)、Desktop Clients(Apple MailやOutlookなど)の割合を確認できます。
図の左上のプルダウンから、それぞれのデバイスについてさらに詳細を確認できます。PhoneにおけるiPhoneの割合、TabletにおけるiPadの割合、Desktop ClientsにおけるApple Mailの割合を見ることで、開封全体に占めるApple社製品の割合がわかるでしょう。この機能を用いれば、メールプライバシー保護機能がリリースされる前の時点で、ご自身の送信先にどれぐらいApple社製品を使っている人がいたのかがわかります。なお、機能リリース後の期間の数字は、デバイス情報が秘匿されているため正確ではない可能性があります。リリース前の数字を見ることで、大まかな割合を簡易的に把握する方法と考えてください。
2. Event Webhookでsg_machine_openパラメータを使う
2つ目は、現在メールプライバシー保護機能が有効な宛先の数を正確に割り出す方法です。SendGridには、Openイベントをはじめ、メール受理やリンククリック等のイベント発生時にその情報を任意のサーバに送信するEvent Webhook機能があります。iOS 15のリリース後、Event WebhookのOpenイベントで送信されるパラメータに“sg_machine_open”が追加されました。メールプライバシー保護機能が有効な宛先のOpenイベントでは、このパラメータがtrueになります。以下がOpenイベント発生時にPOSTされるパラメータの例です。
{ "email":"recipient@example.com", "event":"open", "timestamp":1249948800, "ip":"255.255.255.255", "sg_event_id":"sendgrid_internal_event_id", "sg_message_id":"sendgrid_internal_message_id", "useragent":"Mozilla/5.0", "category":["category1", "category2"], "sg_machine_open": true }
Apple社側のサーバによって開封されたことをSendGridが検知し、その結果を”sg_machine_open”に格納しています。このパラメータは上述の①〜④の条件を満たした時にtrue、それ以外はfalseになります。Apple社のドメインでもメールプライバシー保護機能がオフならfalseですし、Apple社以外のドメインでも4つの条件を満たしていればtrueです。メールプライバシー保護機能は必ずOpenイベントを発生させるので、”sg_machine_open”パラメータがtrueになるユニークな宛先数を調べれば、影響を受けている宛先の数を正確に調べることができるでしょう。
対応を考えよう
影響範囲を調べてみて、メールプライバシー保護機能による影響が発生している宛先が多いなら、対応策を講じるのが良いでしょう。
影響を取り除く
これまで通りOpenイベントを使ってエンゲージメントの計測を行いたい場合は、メールプライバシー保護機能による影響を取り除くしかありません。Event Webhookを使えば、それが可能です。”sg_machine_open”パラメータでメールプライバシー保護機能が有効な宛先のOpenイベントを取り除き、メールプライバシー保護機能が無効な宛先だけを用いて効果測定を行うようにしましょう。ただし、前編で紹介したマーケティングキャンペーン機能(セグメントやA/Bテスト)では”sg_machine_open”パラメータの結果を反映することはできないので、この方法は使えません。
エンゲージメント測定の基準を考え直す(Clickを用いる)
Apple社の今回のリリースにより、今後メールの開封データの信頼性がより一層低下する可能性もあるでしょう。そのため、Openによるエンゲージメント測定の代替手段を考えることは非常に重要です。開封に代わるものとして最もわかりやすいのはクリックデータです。
宛先のセグメント、A/Bテスト、オートメーションなどのワークフローの基準に開封を用いている場合には、クリックを用いることを検討してみてください。例えば、「メールが開封されたら次のメッセージを送信する」フローの場合、メールプライバシー保護機能が有効だと、実際には受信者が開封していなくても次のメールが送信されてしまいます。このようなワークフローが、未開封の受信者にどのような体験をもたらすか想像してみてください。良くない体験を与えるのだとしたら、再考の余地があるでしょう。
一方で、全ての判断基準を開封からクリックに変更するのは難しいことも事実です。まずは、クリック率がどの程度あるのか現状を把握したり、A/Bテストなど判断基準を変更しやすいものから試してみるなど、できることから着手することが大切です。
まとめ
2回にわたり、Apple社のメールプライバシー保護機能とその影響についてご紹介してきました。実はAppleだけではなく、Gmailでも受信者の意思に関係なくGoogle社のサーバによって開封される場合があります。このように、世界的にプライバシー保護の流れは加速しており、今後もその流れは止まらないと考えられます。それを掻い潜ってまで個人情報を取るのは推奨されるべきことではないでしょう。本記事の内容は、決してこの流れに抗おうとするものではなく、今までのやり方を徐々に変えていくための一助として参考にしていただければと思います。
メールというのは手紙と同じで、元来、1対1のやりとりでした。ただ送りつけ、情報を盗み取る手段として使うのではなく、受け取る相手を想像して受信者1人1人に合わせたメッセージを発信することが、メールに求められる役割となるのかもしれません。