SendGridユーザが知っておくべき、Apple社メールプライバシー保護機能の影響(前編)

SendGridユーザが知っておくべき、Apple社メールプライバシー保護機能の影響(前編)

2021年、メールエコシステムやメールマーケティング業界に一番インパクトを与えた出来事は、Apple社による「メールプライバシー保護」機能の発表でしょう。本記事では、この機能のおさらいと、メールのエンゲージメント測定においてSendGridユーザが気をつけるべきことについて2回にわたって詳しく説明します。

メールプライバシー保護機能の概要

2021年秋のApple社製OS(iOS 15, iPadOS 15, macOS Monterey, watchOS 8)のアップデートで、Apple社純正メールソフトである「メール」App にメールプライバシー保護機能が追加されました。Apple社の公式ページでは下のように解説されています。

「メール」App では、メールプライバシー保護を使って、メール送信者があなたの「メール」のアクティビティに関する情報を知ることを防ぎ、あなたのプライバシーを保護することができます。この機能をオンにすると、IPアドレスが隠され、送信者はIPアドレスをあなたのほかのオンラインアクティビティと関連づけたり、位置情報を特定したりすることができなくなります。また、あなたに送信したメールが開かれたかどうか送信者が確認することもできなくなります。

これにより、この機能を有効にした宛先に関して、エンゲージメント測定に以下のような影響が出ます。

① メール開封が正確に検知できないことによる影響
② IPアドレス(位置情報)とデバイス情報が秘匿されることによる影響

どのような宛先に影響が及ぶか

メールプライバシー保護機能は、以下の4つの条件を全て満たす宛先にのみ有効になります。

  • Apple社製デバイスを利用している
  • 新OSにアップデートしている
  • Apple社のメールAppを利用している
  • メールプライバシー保護機能を有効にしている

メールプライバシー保護機能は、OSをアップデートして最初にメールAppを起動した際に有効にするかどうか選択できます。設定 > メール > プライバシー保護から、設定を変更することもできます。

影響を受けるSendGridの機能

メールプライバシー保護機能が有効な場合に、SendGridのエンゲージメント計測機能にどのような影響が及ぶのか、具体的に説明します。

① メール開封が正確に検知できないことによる影響

SendGridでは、メールが開封されると「Open」イベントが記録され、SendGridのダッシュボード上で確認したり、キャンペーンメール送信のトリガーに用いたりできます。Openイベントに関連する機能として、以下の3つに影響が及びます。

1. Activity

ActivityではOpenイベントの発生が画面上に表示され、開封した宛先や時刻を確認できます。しかし、メールプライバシー保護機能が有効な受信者のOpenイベントは、受信者本人ではなくApple社側のサーバによって自動的に開封されたものになります。
なお、メールプライバシー保護機能が有効だとOpenイベントが発生しなくなる、というわけではありません。有効な場合には受信者の意思に関係なく、Openイベントが必ず1度だけ発生します。メールプライバシー保護機能によって自動的に開封されたかどうかを見分けることは、Activity上ではできません(後編で説明しますが、Event Webhook機能では可能です)。

2. Stats

統計機能(Stats)では日ごとや週ごとのOpenイベント発生数を確認できます。メールプライバシー保護機能が有効な宛先がある場合、受信者の意思に関係ない機械的なOpenがカウントされていることになります。そのため、受信者本人の開封(Opens)は記録されている数と異なる可能性があります。1回以上開封した受信者の数を表す「Unique Opens」は、実際の値より多くなるでしょう。

3. マーケティングキャンペーン

メルマガを送信する機能であるマーケティングキャンペーンでは、メール送信後に開封数などの統計を確認できます。Statsと同様、受信者本人による開封数や割合は表示と異なる可能性があります。
またマーケティングキャンペーンでは、Openイベントの発生を判断条件として次のアクションを行うことができます。この判断が正確でなくなる可能性があります。例えば、以下のようなケースが考えられます。

セグメントの条件にOpenイベントを用いる

宛先リストをセグメントに分ける際、あるメールを開封した宛先を抽出することが可能です。開封の有無を条件にしてセグメントを作成すると、本当は受信者本人は開封していないのに開封したとみなされてリストに含まれてしまいます。例えば、未開封の宛先に再送するためにセグメントを作成している場合には、届けたい宛先に送信されないケースが出てきます。

A/Bテストの勝者を決めるのに開封率を用いる

A/Bテストでは、複数バリエーションのメールを送信して受信者の反応を比較し、一定時間内の開封率が高かった方を勝者として残りのキャンペーンメールを送信できます。受信者本人が開封していないのにOpenイベントが発生する場合があるため、正確なA/Bテストが行えない可能性があります。

② IPアドレス(位置情報)とデバイス情報が秘匿されることによる影響

統計機能(Stats)の中には、受信者のIPアドレス(位置)とデバイスに関する統計を表示するものがあります。以下の機能を使っている場合には注意が必要です。

1. Geographical

イベントがどこで多く発生しているかを、ヒートマップで世界地図上に表示する機能です。位置情報が正確でなくなるため、正しいヒートマップが表示されない可能性があります。ただし、メールプライバシー保護機能を有効にしていても、都道府県レベルの大まかな位置は開示されるようです。「Geographical」では国単位の位置情報を表示するので、大きな影響はないかもしれません。

2. Email Clients & Devices

この機能では受信者がメール閲覧に用いたデバイスの統計情報を確認できます。メールプライバシー保護機能が有効だとデバイス情報が秘匿されるため、例えばiPhoneやiPadで開封したという情報は取得できません。

影響を受けない機能

上記の機能以外では影響を受けません。Statsの「Geographical」や「Email Clients & Devices」を利用していないなら、Openイベントに関する機能だけに気を配れば良いでしょう。また、イベントの種類の中で、Open以外のイベントには影響はありません。
例えば、宛先にメールが届いたことを示す「Delivered」イベントが発生しなくなることはありません。また、受信者がメール内のリンクをクリックすれば、「Click」イベントは変わらず発生します。
Stats > Browser StatsおよびBrowser Comparisonでは、どのブラウザやデバイス(iPhoneなど)でメール内のリンクがクリックされたかを見ることができますが、これはClickイベントを計測するものなので影響はないと考えられます。

どのような対応が必要?

今回は、SendGridのどの機能に影響を与えるかをご紹介してきました。しかし、上述の通り、全ての受信者がこのメールプライバシー保護機能を有効にしているわけではありません。対応を考える上では、まずメールプライバシー保護機能を有効にしている受信者がどれほどいるかを把握することが重要です。後編では、ご自身の送信先リストの中でメールプライバシー保護機能が有効になっている割合を見積もる方法と、対応方法を紹介します。

補足:メールプライバシー保護機能の仕組みとOpenイベントの挙動

最後に補足として、メールプライバシー保護機能の技術的な仕組みと、Openイベント発生の挙動についてまとめます。

仕組み

  1. メールプライバシー保護機能が有効である場合、メールAppに追加されているメールアカウントについて、受信者の意思とは関係なくApple社側がメールの内容を定期的に取得する
  2. この時、Apple社側のサーバ上にメール内の全ての画像のコピー(キャッシュ)が作成される
  3. その後受信者がメールを開くと、Apple社側のサーバ上にあるキャッシュ画像へアクセスされる

SendGridは開封トラッキングのために、メール内に小さな画像を挿入しています。メール開封による画像へのアクセスを検知することで、SendGridは開封を判断します。メールプライバシー保護機能では、受信者自身がメールを開く前にApple社側のサーバがこの画像に自動アクセスしておくことで、受信者自身の開封を送信者に知らせないようにします。また、Apple社側のサーバによるアクセスのため、受信者のIPアドレス(位置情報)とデバイス情報も秘匿されます。
Apple社が公表している詳細な情報についてはこちらのページもご覧ください。

Openイベントの挙動

メールプライバシー保護機能が有効な場合に、Openイベントがどのように発生するかを以下にまとめました。なお、これは現時点で弊社で確認した限りのものであり、今後挙動が変わる可能性もあります。

  • Apple社側のキャッシュ処理の中で開封用トラッキング画像へのアクセスが行われ、その際にOpenイベントが発生する。
  • Apple社側による機械的な開封は、送信直後に発生するとは限らない。受信されたすぐ後の場合もあるが、数日間開封が行われないこともある。
  • Apple社側による機械的な開封が行われる前に受信者自身が開封すれば、そのタイミングでOpenイベントが発生する。
  • いずれにしても、必ずOpenイベントが発生する。
  • 開封イベントは1度しか発生しない。1度Openが発生すると、受信者が何度開封したとしても、2回目以降のOpenイベントは発生しない。2回目以降はApple社側のサーバに保存されている画像にアクセスされるためと考えられる。

この記事は後編へ続きます。是非ご覧ください!

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