Appleのメールプライバシー保護機能の影響と対策

Appleのメールプライバシー保護機能の影響と対策

この記事は Complete Guide to Apple Mail Privacy Protection (MPP) 2024 の抄訳です。

Apple社はメールプライバシー保護機能(Mail Privacy Protection、MPP)によって、Appleユーザのプライバシー保護を強化しています。これはユーザが自分の情報を自身で管理できるようにするための取り組みの一環ですが、メール送信者も多くの影響を受けています。

この記事では、メールプライバシー保護機能が誰にどのような影響を及ぼしているかについて、機能リリース後の調査結果も添えておさらいし、メール送信者はどう対処すればよいのかをお伝えします。

メールプライバシー保護機能とは?

メールプライバシー保護機能は、iOS 15以上もしくはmacOS Monterey以上のデバイスで利用できる設定で、2021年9月から提供されています。対応OSで初めてApple社のメールアプリ(以降、メールAppと記載)を開くと、プライバシーを保護するかどうかの質問が表示されます。

ここで「保護する」を選択すると、メールプライバシー保護機能が有効になります。具体的には、受信者のIPアドレスが非公開になり、メールを開封せずとも画像等のリモートコンテンツがダウンロードされるようになります。なお、「設定」→「メール」→「プライバシー保護」で、IPアドレスを非公開にするか、リモートコンテンツをブロックするかを、それぞれ設定することもできます。

誰が影響を受ける?

受信者にも送信者にも影響があります。

影響を受ける受信者

Appleデバイス、対応OS、メールAppを使用しており、かつ、メールプライバシー保護機能を有効にしているユーザです。
2022年の調査によると、マーケティング担当者の77%は「メールプライバシー保護機能は自動的に有効化される」と考えているようですが、受信者が自分で選択しないとこの機能は有効になりません。

影響を受ける送信者

上記の「影響を受ける受信者」にメールを送る送信者は皆、影響を受けています。

影響を受ける送信者

開封トラッキングへの影響は?

メールプライバシー保護機能が有効になっている場合、メールAppは、受信したメールの中のすべての画像を自動的にダウンロードします。画像のダウンロードが行われると開封トラッキングの仕組みが発火するため、実際はメールは開封されていないにもかかわらず開封されたかのように測定されてしまいます。

また、このダウンロードがいつ行われるかは予測できません。配信後すぐにダウンロードされる場合も、数日間ダウンロードされない場合もあります。

開封トラッキングへの影響は?

なお、さらに具体的には、機能リリース後の調査で以下の影響が明らかになっています。

  • 開封される時間帯の違い
    従来、メールが開封されやすいのは午前6時から午後1時とされていましたが、メールプライバシー保護機能による開封は、米国太平洋標準時(PST)の午後6時から午後11時にかけて多く発生していました。
    しかしこれはあくまで傾向であるため、受信者が実際にメールを開封したのかどうかを開封のタイミングから推定することはできません。
  • メールプロバイダによる影響の差
    特にicloud.com、me.com、mac.comといったドメインのメールアドレスで、メールプライバシー保護機能による開封が多く発生していました。これらのメールアドレスを使う人はAppleデバイスでメールAppを使っている人が多いだろうという一般的な想像と合致する結果です。
    逆に、この機能による開封が少ないのは、gmail.comやMicrosoft系のドメイン(outlook.com等)のメールアドレスでした。メールAppではなく、GmailやOutlookといったメールクライアントを利用するユーザが多いのでしょう。

メールプライバシー保護機能の影響を受け、受信者の開封状況を正確に把握することができなくなるので、エンゲージメントがあった宛先を調べたり、メールキャンペーンの成果を評価したりすることは難しくなるかもしれません。開封トラッキングのデータは活用しづらくなってしまったと言えるでしょう。

メール送信者はどう対処すればよい?

マーケターを対象にした2022年の調査では、29%の人がマーケティング業務にマイナスの影響があったと回答した一方、ポジティブな変化があったという人も24%いました。変化を前向きに捉えていたマーケターは、メール開封に頼らないマーケティング戦略を採用していたことが分かっています。

では、メール開封に頼らないマーケティング戦略とは具体的にどのようなものでしょうか。

以前のブログ記事で、

  • Event Webhook機能の”sg_machine_open”パラメータを使って影響を取り除く
  • 開封の代わりにクリックを使ってエンゲージメントを測定する

といった方法を紹介しており、これらが対処の基本的な方針であることは今も変わりません。影響を取り除いた開封データを使うことで、まずはこれまでの計測方法を継続させつつ、クリックデータを使った測定への移行をできるところから進めていきましょう。

今回は上記に加えて、Twilio社のエキスパートチームからの追加のアドバイスをお届けします。

再エンゲージメントキャンペーンを見直す

これまで多くの送信者は、最後に発生した開封やクリックが何日前だったのかを調べて再エンゲージメントキャンペーンを送信するタイミングを決めてきたことでしょう。例えば、6ヶ月の間、開封もクリックもしなかった受信者に再エンゲージメントキャンペーンを送信して、まだメールを受け取りたいかどうかを確認する、といった具合です。

配信したキャンペーンごとの効果測定だけではなく、再エンゲージメントキャンペーンで用いる指標も見直していく必要があります。メールプライバシー保護機能の影響がある以上、開封は必ずしも有効なエンゲージメントではなく、クリックこそが受信者のエンゲージメントを示す指標です。すべてのメッセージを開封しているのに一度もクリックしていない受信者は「エンゲージメントが無い」と考えましょう。

このため、開封よりも一歩踏み込んだエンゲージメントを受信者に促すことがこれまで以上に重要になります。再エンゲージメントキャンペーンをより頻繁に行ったり、SMS等の代替チャネルでのエンゲージメントを促すのも良い方法でしょう。再エンゲージメントキャンペーンの成功例については、こちらのブログ記事をご覧ください。

CTAを最大限に活用する

一歩踏み込んだエンゲージメントとしてクリックを促すためには、次のポイントを意識してメールを構成しましょう。

  • メールは、より短くより簡潔に
  • CTAは、数は減らしてより目立つように

これは決して新しいアイデアではありませんが、開封率の信頼性が下がっている現状では、改めて重要なポイントになっています。そのメリットは、より多くのエンゲージメントが得られることにとどまりません。

効果的なCTAに受信者が反応してくれれば、顧客をメールからウェブサイトやアプリに誘導することができるため、メールよりも豊かでカスタマイズ可能な顧客体験を提供することができます。結果的に、より多くの消費行動を引き出せるでしょう。

CTAのベストプラクティスについては、こちらのブログ記事(英語)をご覧ください。

まとめ

リリースから約3年が経過したApple社のメールプライバシー保護機能について、改めて影響の解説と対処へのヒントをご紹介しました。開封データを従来のように活用できなくなってしまったことは、マーケターにとっては大きな悩みの種かと思いますが、メール送信を見直すことは顧客体験とビジネスを一歩前進させるチャンスでもあります。

メールを取り巻く環境は世界の関心を受けて変化していきます。その変化へのキャッチアップに役立つ情報を、今後もブログで提供してまいります。

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