メールボックスのAI技術 — Apple Intelligence編
- 2025年9月4日
- by SendGrid
- Category: ベストプラクティス メールマーケティング
この記事は Mailbox Provider AI: Apple Intelligenceの抄訳です。
今メール業界では、AIツールによって文章作成が容易になり、ワークフローが効率化され、メール配信はよりスマートに、よりパーソナライズされ、より動的に最適化されるという期待が高まっています。
しかし、受信者のメール体験を向上させるためにAIの力を活用しているのはマーケターだけではありません。Apple、Gmail、Yahoo!などのメールボックスプロバイダもまたAIを採用しています。各社の技術がプロモーションメールに与える影響はそれぞれ異なるため、ブランドメッセージを正しく伝えるためには適切な対応が求められます。現在受信トレイの中でAIがどのように機能し、どのような人が影響を受けているのか、複数回にわたって解説していきます。
今回は、Apple Intelligenceについて紹介します。
現在の利用者は?
Apple Intelligenceはマーケターにとっての重要課題である一方、幸いなことにまだそれほど広くは普及していません。この技術は処理能力を必要とするため、使用できるのはiPhone 15 Pro、15 Pro Max、iPhone 16のいずれか、かつ、iOS 18以上の場合のみです。とはいえ過去4年間で発売されたiPhoneにおいてはユーザの76%がiOS 18にアップデートしており、iOS 18の普及率の高さはApple Intelligenceによるものではないかと報じている記事もあります。新規端末ではデフォルトでApple Intelligenceが有効化されており、利用者は今後拡大していく見込みです。2025年はこのAI技術の影響を調べ、テストと調整をしていくための時間を確保しましょう。
Apple Intelligenceは、メールを開封する前の受信トレイ上の表示も、開封した後の表示も変えてしまいます。その仕組みは次のようなものです。
開封前の要約機能
簡単に言うと、プレビューテキストの追記や変更をするのがこの機能です。Apple Intelligenceの有効化前後で、受信トレイの表示がどう変わるか見比べてみましょう。
(Apple Intelligenceを有効化する前)

ウェルカムギフトをご用意しました
次回のお買い物で15%OFF
(Apple Intelligenceを有効化した後)

ウェルカムギフトをご用意しました
次回のBG.comでのお買い物は、コード”BG”で15%OFFに
有効化前は、15%OFFのコードを入手するためにメールを開封してもらえるよう、件名とプレビューテキストがうまく調整されていました。一方、有効化後はAIによってプレビューテキストが詳細化され、割引コードが表示されてしまっています。メールの本文を読まなくてもコードを取得できるため、メール経由の売り上げとして扱われない可能性があります。これはメールチームにとっては問題です。
逆に、プリヘッダーに戦略的に配置した重要な情報がApple Intelligenceによって完全に無視されることもあります。Fat Quarter Shopのプレビューテキストを見てください。
(Apple Intelligenceを有効化する前)

いつの時代も色あせない、ModaのGoodnight Irene!
本日のフラッシュセールは最大65%オフ!金曜ニュースレター | 2025年2月21日…
(Apple Intelligenceを有効化した後)

いつの時代も色あせない、ModaのGoodnight Irene!
Fat Quarter Shop ニュースレター 2025年2月21日 午前8時からフラッシュセール開始
Apple Intelligenceを有効化すると、フラッシュセールについては確かに記載されていますが、「最大65%オフ」という開封を促す重要な情報が省略されてしまっています。
この要約機能は、受信トレイのプレビューに表示させたかった内容を無視し、エンゲージメントや属性情報に悪影響を与えるリスクがあるだけでなく、件名とプリヘッダーテキストの調和も乱してしまいます。Oracle Digital Experience Agencyが最近行ったテストでは、Apple Intelligenceのプリヘッダーテキストの処理には一貫性がなく予測不能であることが分かりました。プリヘッダーテキストは長い間、不思議で面白い件名の「考えを完結させる」ために使われてきましたが、今後はこういったワンツーパンチに頼ることはできなくなると考えた方が良いでしょう。幅広い対象の目を引くために今後も創造力はフル活用していくべきですが、件名は要点を押さえ、プリヘッダーテキストがなくても重要な情報が伝えられるものにする必要があります。
開封後の要約機能
メールを開くと「Summarize(要約する)」ボタンが表示されます。クリックすると上部に1〜3文程度の要約が表示され、その分、本文は下に追いやられます。以下の例をご覧ください。
(要約ボタンクリック前)
(要約ボタンクリック後)
開封後の要約機能ではメールを開封したうえでボタンをクリックする必要があるため、開封前の要約機能ほどマーケターへの影響は大きくないと考えられます。しかし、どのように要約されるかや、要約があるせいで重要なコンテンツが下の方に追いやられてしまわないかをテストしておくことは重要です。インターネット上ではすでに、プッシュ通知の要約機能に関するおかしくて分かりにくい失敗事例があふれています。プッシュ通知の要約機能に比べればメールの要約機能は優れているとは思いますが、メールの意図をより正しく要約に反映させるために、メールのデザインにも注意を払いましょう。
Inbox Monsterによる検証
メールのデザインがApple Intelligenceの要約に与える影響については、すでに多くの議論が交わされています。そこで我々はInbox Monsterと協力し、有力な説をいくつか実際に検証しました。Inbox Monsterは最近、クリエイティブプロジェクトツールにiPhone 16のAIビュー機能を追加しました。これを使って、メールを実際に送信することなく開封後のAI要約の内容を確認しました。
テスト方法は、まずシンプルなメールを1通用意し、いくつかの異なる方法でコーディングしてApple Intelligenceが各バージョンをどのように要約するかを検証するというものです。なお、件名「Your first creative project is in.(初めてのクリエイティブプロジェクトができました)」はすべてのバージョンで共通です。

テストに使用したメール
それでは、いくつかのテストシナリオとその結果、および、それがメールのデザインチームにとってどのような意味を持つのかについて見ていきましょう。
仮説1:Apple Intelligenceは画像内のテキストを無視するため、画像のみのメールはこれまで以上に避けるべきである
テストメールの作成方法:テキストもalt属性もない1つの大きな画像として作成しました。
Inbox MonsterのAI要約プレビュー:

「初めてのクリエイティブプロジェクトは問題なく作成できました。」
結果:画像内の文言は全く使われていません。要約は件名のみに依存しているようです。メールの受信者はすでに件名を見ているので、追加の情報が何もないのは少し残念です。
この結果から分かること:これまで画像を多用していた場合は、伝えたいポイントがきちんと要約としてまとめられるようにテキストを散りばめていくことを検討した方が良いでしょう。
仮説2:Apple Intelligenceは画像内のalt属性も無視する
テストメールの作成方法:仮説1と同じ画像を用いましたが、以下のように非常に説明的なalt属性を追加しました。
“With your first creative project and rendering test, you now have some great insights on how your email shows up, plus a wealth of other collaboration and diagnostic tools.”
(クリエイティブプロジェクトとレンダリングテストによって、メールの表示に関する貴重な知見が得られ、豊富なコラボレーションツールや診断ツールも利用可能になりました。)
Inbox MonsterのAI要約プレビュー:

「初めてのクリエイティブプロジェクトができました。連絡先とリンクがあります。」
結果:alt属性はすべて無視されてしまいました!どういうわけか、一層ドライでロボット的なものになってしまっています。
この結果から分かること:アクセシビリティの観点から画像にはalt属性をつけるべきです。しかし、これまでにも指摘されていたとおりApple Intelligenceはalt属性を要約に取り込みません。つまり、重要な内容はテキストで記述しておく必要があるということです。
仮説3:テキストの量が多いほど、Apple Intelligenceの要約はより分かりやすいものになる
テストメールの作成方法:最高の結果を出すべく、テキストと画像をバランスよく組み合わせました。
Inbox MonsterのAI要約プレビュー:

「初めてのクリエイティブプロジェクトでレンダリングテストが完了しました。メールの表示に関する知見が得られ、コラボレーションツールや診断ツールが利用可能になりました。」
結果:ついに、最も重要な情報だけを抽出した要約版が完成しました。まず件名が優先され、次にメールの冒頭部分のテキストが優先されている点も興味深いです。
この結果から分かること:件名は明確かつ分かりやすく、最も重要な要素や行動喚起は本文にテキストで記載すべきです。重要な情報を要約に含めたい場合は、本文の上部に配置しましょう。
仮説4:Apple Intelligenceは画像を無視するので、絵文字も無視する
テストメールの作成方法:仮説3のメールにいくつかの絵文字を追加し、要約に大きな変化があるかを確認しました。
Inbox MonsterのAI要約プレビュー:

「最初のクリエイティブプロジェクトとレンダリングテストがメールの表示に関するインサイトを提供し、コラボレーションツールや診断ツールが利用可能になりました。」
結果:絵文字による大きな変化は見られませんでした。
この結果から分かること:Inbox MonsterのLaura Sullivan氏によると、絵文字は「要約に干渉することなく、アイデアや感情を表現するための優れた戦術になり得る」そうです。今回のテストで絵文字が要約を邪魔しないことが確認できたのは朗報です。件名とプリヘッダーの合わせ技を当てにできなくなっても、少なくとも件名で直接感情を伝えることができるのですから。もちろん、絵文字はすべてのブランドやコンテンツに適している訳ではありませんが、遊び心があるキャンペーンで戦略的に絵文字を活用する余地はまだありそうです。
Laura氏はさらにこう述べています。「今回テストしたメールは、明確なコンテンツエリアが2つ、主要なCTAが1つのみであったことが功を奏しました。これは多くの場合で有効なようです。CTAが3つ以上あるメールでAI要約が意味不明になってしまっている事例を見たことがあります。このことから、CTAは1つに絞るべき、という教訓が得られました。」
まとめ
デザインへの影響については一旦さておき、Apple Intelligenceに関して最も憂慮すべきは、受信者がメールを開く前にAIがメールを要約してしまうことです。これはエンゲージメントの低下につながる可能性があります。曖昧で控えめなコピーで開封を促すことはもうできません。Apple Intelligenceはメールの「お楽しみ」をすべて暴露してしまいます。もしかしたらメールのAI要約にざっと目を通し、掘り出し物を虎視眈々と狙うアクティブな読者もいるかもしれませんが、メールのデータからそれを知ることはできません。Apple Intelligenceはプロモーションメールとの関わり方に影響を及ぼし、今後もプロモーションメールを受け取りたいかを定期的に確認することの重要性を強調しています。